2-5『クレイジーチェーンソー』


注意 今回、終わりのほうでグロテスクな表現があります


特隊A「……動く敵影無ぁし!」

隊員B「東側、敵影無しです!」

各所から補給へと報告の声が上がる

補給「了解!……収まったか、後方の二分隊二組はどうなった」

武器C「あ。補給二曹、後方から味方が来ます」

南側から自衛率いる二組と小型トラックが近づいてきた

自衛「片付いたようだな」

二組の各々は現場の状況を見て、思い思いの表情を浮かべる

隊員C「派手にやったもんだな、まったくよォ……!」

ハンドルを握っていた隊員Cがその場所状態を見て嫌味のように言う

補給「自衛士長、後方の敵は?」

自衛「ケツの奴等は弾きました。こっちも片付いた用で」

補給「あぁ、これで周囲は安全、隊員H三曹!対象の確保を始めてくれ」

隊員H「了ぉ解!」

補給は馬車の近くで警戒を続ける隊員Hに指示を飛ばした
そして、続けてインカムのスイッチを入れ、その向こうに声を送る

補給「デリック2、並びにジャンカー1へ。戦闘行動は終了、こちらへ合流してくれ」

輸送B『デリック2了解。向います』

作戦区域から離れたところで、大型トラックが一両待機している
インカムから聞こえた返答は、その大型トラックからだった

補給「自衛、二組からも二三人確保に回してくれ」

自衛「えぇ、分かりました。隊員D、支援A、お前等確保を手伝いに行け」

隊員D「了解」

支援A「ゲストの顔を拝みに行こうぜぇ」

隊員C「早ぇとこ終わらせて来いよな……!」

隊員Dと支援Aは、隊員Cの文句を聞き流しつつ、転倒した馬車へと歩いていった

補給「私も捕獲対象の確認に行く。他の者は、引き続き周囲の警戒をしてくれ」

自衛「了解」

指示を伝えると、補給もその場から立ち去って行った

自衛「隊員C、お前と同僚は俺と周辺警戒だ。とっとと立て」

隊員C「へーへー」

同僚「ちょっとはやる気を出せ」

武器C「ちょい……そこ空けて下さい」

その時その場へ、補給と入れ替わるように、負傷した82車長が運ばれてきた

自衛「82車長か」

82車長「よぉ……ヅ、痛ぇ……」

82車長は高機動車の後ろに座らされる
彼の着る1型迷彩服の右肩周りは、血が染み出て嫌な色に染まっていた

同僚「う……」

自衛「こりゃダイレクトに刺さったもんだ」

各々が感想を述べる中、衛隊Aが応急処置を始める

衛隊A「肩の骨で止まってるな……とりあえず消毒だけしましょう」

傷口を確認、矢が刺さったまま傷口周りを消毒し、タオルを被せて止血を施してゆく

衛隊A「これで村に戻るまで、我慢してください。下手に抜くと失血がひどくなりますから」

82車長「分かった、糞……ついてねぇ……」

隊員C「脳天にぶっ刺さらなかっただけマシだろうがよ」

いつも道理の嫌味口調で言った隊員Cだが、直後わき腹を同僚に肘で小突かれた

同僚「負傷してるんだぞ、気を使ったらどうだ」

隊員C「ああ、だから“脳みそに命中しなくてよかったね”つったろ?
     俺等なんざ、一つ違えば剣山みたいになってたかもしれねぇんだぞ?」

自衛「そのへんにしとけ馬鹿が。82車長、まぁ安静にしてろ」

82車長「あー……ありがとよ」



一方、補給は目標確保が行われている横転した馬車へと近寄る

商会員A「ぐぁ……放せ……!貴様等……!」

隊員H「おーい、抵抗してくださんな」

未だに視界の不鮮明な商会員Aが馬車から引き出されている
脇には気絶した状態で拘束された側近の姿もあった

補給「失礼、あなたが商会員A氏ですか?」

補給は、隊員達に拘束されつつある商会員Aに近寄りそう尋ねる
あくまで丁寧な口調で問いかける補給だが、商会員Aからしてみれば皮肉としか捉えられなかった

商会員A「貴様等……一体何者だ!?一体何が目的だ!?」

補給に向けて喚き散らす商会員A

補給「質問に答えてもらいたいんだがな……」

商会員A「このような事をしてただで済むと……!」

だがその商会員Aの声をかき消すように、大型トラックとオートバイが一両づつエンジン音を立てながら走りこんできた

補給「ちょうどいい」

補給は商会員Aの問いには答えず、大型トラックに向けて手を振る
大型トラックは近くまで走ってきて停車、そして隊員が降車して来た

補給「誰か、彼をこっちに連れて来てくれ」

補給は隊員達に向けてそう声をかける
すると、トラックから隊員に両脇を囲われて、一人の男が連れて来られた

商会員A「な、お前……!?」

追っ手A「……」

商会員Aの眼の前につれてこられたのは、追っ手Aだった

補給「この人が商会員A氏本人で間違いないか?」

追っ手A「……ああ」

補給の問いかけに、追っ手Aは静かにそれだけ発した

商会員A「追っ手A、貴様!まさか裏切りおったのか!?」

商会員Aは追っ手Aに食いかかるように聞くも、追っ手Aはそれには何も答えなかった

補給「間違いなさそうだな、拘束してトラックに乗せて置け。あとは何か物的証拠になるような物がないか……」

支援A「ヘイ!なんだこりゃぁ?」

その時、馬車の内部を覗き込んでいた支援Aが声を上げた

補給「どうした?」

補給は馬車へと近づき、支援Aに尋ねる

支援A「奥のほうになんか仰々しいモンが居座ってやがる……あー、です」

補給に気付いた支援Aは、語尾を怪しく誤魔化しながら馬車の奥を指し示して見せた
変わって補給が内部を覗き込むと、馬車の奥の座席の下に、鎖で固定された大きな箱があった

補給「えらく厳重に固定されてるな」

商会員A「ッ!やめろ、それに触れるな!その中身は大切な……」

馬車を覗き込む補給達に、商会員Aが血相を変えて叫び声を上げる

隊員H「はっはっ、教えてくれてありがとな。ほら行け」

商会員A「貴様等なんなんだ!?一体何が目的だ!?」

そして叫び続けながら、商会員Aはトラックへと連行されて行った

補給「取り出したい所だが、この状態だと少し手間だな」

隊員D「馬車の壁を引っぺがして取り出しましょう。トラックからチェーンソーを持ってきます」

補給「頼む」

隊員Dは馬車の上から飛び降り、大型トラックに走っていった



拘束と接収が行われる中、端のほうでは隊員Bが監視を行っている

隊員B「はー、こりゃひでぇや」

隊員Bの足元には、一人の重装騎兵の体が横たわっていた
近くには挽き肉同然となった馬の亡骸も見え、隊員Bはそれらを苦い表情で眺めていた

隊員G「隊員B、こっちを手伝ってくれ!」

隊員B「あ、はい!」

隊員Bは呼ばれた方向に振り返って返事をした
そして立ち上がって小銃を持ち直し、呼ばれたほうへ向おうとする

隊員B「?」

だがその時、背後に妙な気配を感じた
重装騎兵の亡骸が横たわっているのだから、当たり前だと心の中で思いながらも隊員Bは背後へ視線をやる

隊員B「……え?」

そこで彼の目に映ったのは、先程まで横たわっていたはずの、屈強な外観の重装騎兵だった

隊員B「ぐがッ!?」

状況を把握するより前に、隊員Bの腹部に衝撃が走る
重装騎兵より放たれた拳が、隊員Bを襲ったのだ
受身も取れない状態での攻撃に、男性の平均よりも小柄な隊員Bは中に浮かび、地面に放り出された
重装騎兵は隊員Bが怯んだのを見てから、自分の近くにあった剣を手に取った
そして剣を手に、隊員Bへと歩み寄ろうとする

隊員B「が……あぁ……!」

腹部の鈍痛と混乱に襲われながらも、隊員Bは必死で這いずり、重装騎兵から距離を取ろうとしていた
それと同時にどうにか小銃を構え、重装騎兵に銃口を向けるが

隊員B「あッ!」

発砲する前に重装騎兵が剣を払い、小銃が弾き飛ばされた

隊員B「ぐ、嘘……」

そして剣を大きく振り上げ、隊員Bの体を貫くべく振り下した

隊員D「隊員Bッ!!」

だが剣が隊員Bを貫く前に、彼の名を呼ぶ声が上がる
同時に、金属が同士がぶつかり、こすれる様な音が響きわたった

隊員B「!?」

隊員Bの目に映ったのは体勢を崩して大きくよろめく重装騎兵
そして両手で持ったチェーンソーで、敵を真横から叩き殴った隊員Dだ
隊員Dの持つチェーンソーは起動し、唸り声を上げていた

隊員B「隊員D……!?」

隊員D「逃げろ!こっから離れろ!」

隊員Dは隊員Bに向けて叫ぶ
言われた隊員Bはなんとか立ち上がり、よろめきながらその場から離れていった
突然の衝撃により、よろめきながら数歩下がった重装騎兵だが、すぐに体勢を立て直す
生身にチェーンソーが当たっていれば大惨事になっていただろうが、鎧に阻まれ重装騎兵に外傷はなかった
それどころか重装騎兵は体勢を立て直し、切りかかって来た

隊員D「野郎!」

だが隊員Dはそれよりも先に、重装騎兵向けて突っ込む
そして重装騎兵の右腕を狙ってチェーンソーを振り上げた
チェーンソーは篭手に命中、“ガリガリ”という接触音が一瞬響く
衝撃で重装騎兵の右腕が跳ね上がり、手から剣が離れた
隊員Dはそのまま、チェーンソーを重装騎兵の体の前まで引き戻す
そして刃の回転するチェーンソーを、重装騎兵の体に叩き付けた

隊員D「おあぁぁぁぁッ!!」

隊員Dの叫び声とチェーンソーの刃が鎧を引っかく音が盛大に上がる
だがわずか数秒、それが続いただけで、両者は反動ですぐに離れた

隊員D「無理か、分かってたけどよ糞ッ!」

チェーンソーは鎧に傷をつけただけで、重装騎兵本人にはダメージを与えられなかった
そもそもチェーンソーで白兵を挑んだこと事態、隊員Bを救うためのその場しのぎの行動でしかなかった
隊員Dは態勢を整えるべく後退しようとしたが、

隊員D「う!?」

その前に、重装騎兵は丸腰であるにもかかわらず隊員D目掛けて突撃してきた

隊員D「うおぁぁぁぁ!」

隊員Dはチェーンソーを重装騎兵にぶつけ、再び金属音が鳴り響く
そしてよろめく重装騎兵
だが彼の戦意が衰える気配は無い
勇敢、いや、負傷と出血により感覚が麻痺しているのかもしれない

隊員D「クレイジー……」

隊員Dが呟くも、重装騎兵は再度突撃の構えを見せる

隊員D「野郎……!」

埒が明かない、だが鎧を貫く術もない
そう思った矢先、隊員Dは一箇所に目をつけた

隊員D「そこだ糞野郎ォッ!」

そしてチェーンソー切先を、今まさに突撃してきた重装騎兵の頭部、
ヘルムの目の部分の開口部向けて突き出した

重装騎兵B「が!?」

チェーンソーは開口部の縁に引っかかるが、隊員Dはさらにチェーンソーを押し込み
チェーンソーはヘルムの内部、重装騎兵の顔面に到達した

重装騎兵B「ッ!……ごがぁあばががががあッ!?」

ヘルムの内部で、重装騎兵の顔面はチェーンソーにより掘り起こされ、かき乱されていく

隊員D「ああああああああッ!!」

隊員Dは叫びながら、差し込んだチェーンソーを頭部をかき回すように動かした
重装騎兵の体は奇妙に痙攣し、ヘルムの開口部からは血や肉片のような物が噴き出す

重装騎兵B「ががが……あば……、が……」

やがて重装騎兵は地面に膝を突いた
隊員Dはその重装騎兵からチェーンソーを引き抜く
支えを失った事により、重装騎兵は倒れ、地面に突っ伏した

隊員D「野郎……、イカレ野郎……ッ!」

隊員Dは不安定な呼吸の中で、重装騎兵に向けて言い放った
その時、図ったかのようなタイミングで、陰鬱な色の空が雨粒をばら撒き始めた
周辺が雨水で滲み出す中、隊員Dははっきりしないな意識の中で、重装騎兵の亡骸を見つめていた
最初に重装騎兵を殴ってからの経過時間はほんの数十秒だったが、隊員Dにとってはとてつもなく長い時間に感じられた

自衛「隊員D、おい隊員D!」

そこへ声をかけられ、意識が引き戻された

隊員D「……組長」

隊員Dの周囲には、自衛等二組が駆けつけて来ていた

隊員C「うぇ……何やらかしてんだお前はよぉ!?」

その場の惨状に隊員Cは苦言を吐く
周囲には血や肉片が散乱し、チェーンソーは血まみれ
そして隊員D本人も顔や肩周りが返り血で染まっていた

同僚「隊員D……お前、顔に……」

隊員D「え?」

頬の辺りになにか張り付いているような違和感を感じた
手をあててそれを掴み取ってみると、それはなにが白い物体だった

隊員D「あ……目玉だ」

最初、それが何か判別がつかなかったが、よくよく見るとそれは人間の眼球だった

隊員C「げぇ……おぃ、おかしいんじゃねぇかマジで!?」

隊員D「急だったんだ、しょうがねぇだろ……隊員Bは?」

倦怠感の混じった声で、隊員Dは尋ねる
緊張と興奮が一気に解けた影響か、隊員Dは酷くしんどそうだ

自衛「無事だ。お前ぇこそ怪我はねぇか」

隊員D「ええ……たぶん」

隊員Dはそういうが、返り血まみれの見た目では、負傷しているのかどうか判別がつかない

隊員C「こんな血まみれで分かるわけねぇだろが」

自衛「隊員D、一応手当てを受けろ。その物騒なもんは置いてな」

自衛は隊員Dからチェーンソーを引ったくり、手当てを受けに行くよう言う

自衛「隊員C、こいつを連れてけ」

隊員C「分かったよ。ほれ行くぞ隊員D」

隊員D「ああ……」

隊員Dは隊員Cに付き添われ、高機動車へと歩いていった

同僚「なんていうかこいつは……凄いし酷い……」

重装騎兵の亡骸を見て、そんな台詞を呟く同僚

自衛「観察はそこまでだ。他にくたばってる奴等の息を確認したほうがいい」

同僚「ああ……そうだな。私は西側を見てくる」

同僚はその場から逃げるように立ち去る

だが自衛はそこから移動する前に、先程隊員Dからひったくったチェーンソーに視線を落した

自衛「……こいつぁ、使えるかもな」

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